
──まずは企画の経緯を教えてください。
準備期間の長かった『顔』と違って、今回は巡り会わせの側面が強かったんです。そもそも僕は、自分がもう一度、藤山直美さんと映画を撮れるとは思っていなかった。彼女はつねに数年先まで仕事が詰まっているし、前回もオファーから撮影まで三年半かかっています。だからこそ『顔』の現場では、これが最初で最後だと思って全力をぶつけました。たぶん撮影直後は、僕の顔を見るのも嫌だったと思う(笑)。そのくらいお互いすべてを出し切った実感があったんです。ところが2015年になって、藤山さんのスケジュールが夏頃ぽっかり空きそうだという話が入ってきた。最近は舞台を中心に活動しておられますが、打診してみたら「阪本さんの映画なら出てもいい」と話してくれたという。驚いたし、嬉しかったです。それで数日でプロットを考え、一週間で脚本を書き上げました。細かい自問自答はほとんどなし。音楽家がメロディーを思い付くように、自分の中のいろんな記憶がつながって1つのお話になったような感覚でした。
──物語の着想はどこから得たのですか?
まず最初に、『顔』の延長線上にあるテーマはやめようと決めました。ただ、やるからには舞台では表現できないものじゃないと意味がない。またスケジュールが二週間ちょっとしかなかったので、撮影的にはワンシチュエーションが望ましい。こういった条件を考えていた際、頭の中でふと「団地」を舞台にした今回のラストシーンが浮かんできたんです。その映像から具体的な物語が広がっていきました。藤山さんを軸に、岸部一徳さん、石橋蓮司さん、大楠道代さんの四人が織りなす大阪の庶民劇でありつつ、たとえば星新一さんのショートショートみたいに、最後の一行で常識とか日常の次元が引っ繰り返ってしまうような(笑)。そういう世界観が提示できたらいいなと。
──執筆にあたって意識されたことは何でしょう?
一つは大阪弁のテンポと面白さ。今回、中心となる四人は最初からアテ書きでキャラクターを造っています。藤山さん、一徳さん、蓮司さん、大楠さん。僕が大好きな声を頭の中で響かせ、その会話を想像しつつ台詞を考えていきました。もう一つ大事にしたのは、意外なものの取り合わせですね。僕にとって『団地』の脚本は、いわば藤山さんに宛てたラブレターみたいなもの。最初の読者である彼女が、思わず「いったい何やの、これ」と笑ってくれれば、一番嬉しい(笑)。そういう新鮮な違和感みたいなものも、会話劇の中に意図的に放り込んでいます。それこそ星新一さん的なテイストもそうですし。少年時代に愛読したアーサー・C・クラークなど海外作家たちの影響も入っているかもしれない。その底辺にはきっと「この宇宙の中で人はどう生かされているんだろう」という、ずっと昔から抱いてきた疑問も流れてるんだと思います。
──実際に演出された感想はいかがでしたか?
圧倒的な存在感でしたね。ある種のロードムービーだった『顔』に比べ、今回の物語は主人公がある出来事を経験し、団地に引っ越してきた“人生の途中”から始まります。派手な感情表現があるわけでもなく、ヒナ子という女性の心情──内側に抱えたものを表現するのはかえって難しかったと思うんです。でもフィルムをつなげてみると、淡々とした日常からそれが見事に滲んでくる。人のオカシミも哀しさも、僕の想像をはるかに超えたリアリティーで迫ってくるんですね。『顔』とはまた別の形で、役者・藤山直美の凄さと向き合えた気がします。もちろん他の出演者についてもそう。不条理で、言ってしまえば荒唐無稽なこの喜劇を地に足の着いたドラマに仕立ててくれたのは、やっぱりあの四人が持っている力だと思うんですね。

──脚本の第一印象はいかがでした?
最初に読ませていただいたときは驚きました。阪本さん、なんとまぁヘンテコなお話を考えはったんやろうと(笑)。呆れたと言った方が正直かもしれません。それでも16年ぶりに(映画の主演を)やらせていただこうと決めたのは、ひとえに「阪本監督の作品やから」。その一言につきますね。もちろん映画人として尊敬していますし、舞台の世界で生きている私にとっては、すべてを預けられるただ一人の監督さんですから。阪本さんは、演出の距離感が素晴らしいんです。普段はお友だちとして仲良くさせてもらってますが、ひとたび現場に入ると、役者との間に的確な距離をビシッと置かれる。決して近付きすぎず、でも必要な思いはしっかり伝えてくれる。それが私には、すごく心地いいし、安心できるんです。
──主人公・山下ヒナ子の人物像については?
特に変わったところもない、ごく普通の主婦ですが、根っこのところはやっぱり哀しい人なんやろうなぁと思います。なにせ、ああいう哀しい事情があって廃業した旦那さんと二人きりで生きてるわけですから。そのつらさ空しさは、ちょっと言葉では言い表せないはず。ヒナ子さん演じるにあたってもそこが大きな、ほとんど唯一と言っていい軸でした。だけど、そういうご夫婦って皆さん、表に出れば普通に笑ってらっしゃたりするでしょう。スーパー行って、晩ご飯のお惣菜を買うて。その日その日を生きていかなあかん。哀しみを抱えながらも淡々と暮らしている初老の夫婦の、そういう独特の雰囲気が伝わればいいなぁと。そう思いながら演じていました。
──「団地」という舞台設定はどう思われましたか?
実は私も阪本監督も、昭和33年の生まれ。小学校の頃に大阪万博があって、家の近所に団地がどんどん建ち並ぶのを見ながら育った世代なんです。子供の頃は、団地のシステムキッチンが妙に羨ましかったりね(笑)。どこか新しさの象徴みたいなところがありました。それが今は、若かったお父さんお母さんも歳を重ねられて。建物にはエレベーターもなく、その一帯がどこか時代に取り残された感じになってるでしょう。そういう“昭和な空間”そのものをテーマに選ばれたのは、さすが阪本さん、面白いところに目を付けはったなと。しかも今回、昔ながらの風情のある団地に実際お邪魔させていただいて、住民の方々と一緒に撮影することもできましたからね。個人的にも懐かしかったし、作品にとってもよかったなと。すごく感謝しています。
──撮影現場の印象を教えてください。
とにかく疲れました(笑)。私はどこまでいっても“舞台の国”の人間で、“映画の国”に来たら部外者ですから。映画はやっぱり、監督さんのものやと思うんです。舞台と違って芝居する順番もバラバラだし、物語の全体像だって監督さんしかわからない。だから今回、私にとっては阪本監督だけが命綱。その思いに応えたい。100%は無理でも、パーセンテージを少しでも上げたいと、本当にそのことだけ考えていました。監督は監督で、私が舞台でお見せしているのとは違った何かを引き出そうとしてくださったんじゃないかな。現場で演出していただきながら、それは肌で感じましたね。もちろん共演者の方々にも恵まれたと思います。お芝居は結局、アンサンブルが命。真ん中に立ってる主役だけ変に目立つのはダメで、出演者みんながしっかり噛み合わないと、面白くはなりません。その点、岸部一徳さん、石橋蓮司さん、大楠道代さんのお三方は、日本映画の貴重な宝みたいな役者さんたちでしょう(笑)。他の方々もそう。だからこの映画は、自分が動いたんとは違う。周りの方々が私を動かしてくれはったんやなぁと。今はつくづく、そう思ってます。
藤山直美でSFなんだよ。渋すぎない!?
脱力しきっている役者の面々は
映画だ!
市川崑監督作品の『おとうと』の銀落としの向こうを張って暗い! それでいて、映画のトリッキーな性能を見せてくれて、監督と編集マンの技が利いている。これが小気味いい。が、難点もある。それを言うのはヤボなのでやめる。
好きだね。これ!
関西弁の言い回し。絶妙な間合い。すべてがあまりにも自然で笑ってしまうわ。
藤山直美さん、岸部一徳さんの圧倒的な存在感に始めから終いまで釘付けですわ。
そして昔見た昭和の原風景「団地」、そこにうごめくけったいな人々。
石橋蓮司さんがオモロイ。大楠道代さんがオモロイ。
とにかく人間がけったいで
オモロイ。
監督、よおこれだけの役者さん揃えましたなぁ。
な~んて感心してると、今でもあるある、人の噂が勝手にあれよあれよと転がっていく驚きの展開に
びっくりポン!
ザ・阪本組とも言うべき登場人物たちの可笑しみに満ちた台詞と、団地の日常にある人々の表情は、リアルとシニカルの格子模様。
社会の片隅にある生活を淡々と描きながら、捻り出されるユーモアに、マジに、いちいち「何してはるねん」「いやー、あり得へん」と、突っ込みを入れている自分がいました。
饒舌ではない登場人物の想いが
大きな波のように繰り返し胸に迫ります。
エンディングを迎える頃には阪本マジックにしてやられたと悔しくもなるストーリー。
この「団地」こそ、映像作家であり脚本家である阪本順治のたどり着くべき場所だったかもしれません。
直美さん、一徳さん夫婦。
そして‘団地’の人々を
ぎゅっと抱きしめたくなるような
愛おしさが胸に迫ってきた。
阪本監督の人間愛に圧倒されました。
無理のない団地の世界と
あからさまな笑いにすっかり引き込まれ
阪本監督は巧妙な調剤師か
マジシャンかもういっぺん観たいわ!
なんとも、おもろ悲しい。
やるせない。
のに、笑える。
笑っちゃえたら、今度は、なんか切ない。
藤山直美と岸部一徳。
最強の夫婦による
ウルトラ団地型コメディー!
なんだろう、この奇妙ななつかしさは?
斜め上、ずーっと斜め上!
16年ぶりのタッグは
変幻自在のやりたい放題でした。
なんだこの映画は!
見たことのない映画でした!
傑作ですね! 阪本監督!
きっと阪本監督も団地を<空>から見たことがあるに違いない。
素晴らしい<あわい>を楽しませてもらいました。
何とも言いようのない面白さ。
見たことない感じの映画。
で、どっさり感動もらいました。